株式会社NTTデータ経営研究所(所在地:東京都千代田区、代表取締役社長:山口 重樹、以下 当社)は、メンタルヘルス関連の課題を抱える当事者(以下 当事者)が製品・サービス開発に参画する「当事者参画型製品・サービス開発プログラム(以下 本プログラム)」を実施します。
本プログラムは、当事者の日常生活や職場における課題・ニーズに対応する製品・サービスの開発プロセスに、当事者自身が主体的な協力の意思をもって参画することで、共生社会実現に資する質の高いソリューションの創出を目指すものです。
本プログラムを通じて当事者の課題・ニーズに対応する製品・サービスを生み出し、当事者が自分らしく生活することができる社会にしていくこと、そして、当事者の具体的な声をより重視したインクルーシブデザイン(*1)を取り入れた製品・サービスへの発展を通じた新たな市場を創出していくことを目指します。
なお、本取り組みは経済産業省「令和5年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業(サステナブルな高齢化社会実現及び当事者参画型開発普及に向けた関連事業)」の一環として実施するものです。
1. 背景と目的
我が国においては少子高齢化とともに人手不足が深刻化する中、メンタルヘルスの影響により仕事や社会参加ができなくなることは社会的な損失であり、働く世代のメンタルヘルスを支えることが重要です。一方、メンタルヘルスの課題を抱える当事者は自身の不調や不安等についての声を挙げにくく、生活や仕事における具体的な支障やニーズの内容が見えにくいことが課題となっています。
そこで、当事者が製品・サービス開発のプロセスに参画し、生活・仕事における障壁や課題・ニーズに対応する製品・サービスを創出することで、当事者の生活・仕事における課題・ニーズを解決し、仕事や社会への参加などの本人の希望の実現につなげていくことを目指します。
2. 当事者参画型開発とは
当事者参画型開発とは、製品やサービスの開発において、直接的な利用者や影響を受けるものの、積極的に声をあげづらい人々、すなわち当事者が主体的に参加し、意見や経験を反映させながら共同でプロジェクトを進める手法です。
当事者参画型開発は、製品の使いやすさを向上させるだけでなく、様々なバックグランドや経験をもつ当事者の参加によって、多様なニーズを尊重した社会的包摂が促進されること、当事者の体験や視点が取り込まれることにより、従来の枠を越えた解決策が生まれることが期待されます。また、当事者が製品開発のプロセスに主体的に参画することで、当事者の社会参加や復帰につながることが期待されます。
なお、認知症領域で行った先行事例では、当事者の声を踏まえたサービス開発につながることに加え、当事者本人の社会とのつながりの実感や自己肯定感を高める効果が見られています(*2)。
3. 具体的な取り組み方法
本プログラムの実施にあたり、当社は複数の当事者コミュニティや当事者研究の専門家と連携して当事者参画の環境を構築し、今後、製品・サービスを開発したい企業とともに本プログラムを実施します。
<連携する当事者コミュニティの例>
現時点で連携している当事者コミュニティは以下の通りです。
<想定される当事者と課題・ニーズの例>
メンタルヘルス領域の当事者としては、うつや不安障害、統合失調症、また発達障害を持つ人などを主な対象者と想定しています。発達障害を持つ人は、タスク整理の困難さ、特定の言葉に囚われる、感情理解や共感的コミュニケーションが難しい、得意と不得意の差が大きく周囲の理解や支援が重要などといった課題やニーズがあると想定されます。また、うつや不安症状がある人は、パニック症状や予期不安により外出が困難、動きたくても家から出られない、日常生活の行動(例:入浴、メイク、調理、掃除)へのやる気が起きないなどの課題があると想定されます。また双極性障害がある人は、躁うつの症状で休職や転職を繰り返す、躁状態のイライラや怒りで周囲との関係が悪化しやすい、うつ状態になると仕事を休みがちになる、といった課題があると想定されます。統合失調症の人々は、社会的な孤立感や幻覚や妄想の出現、情緒のコントロールが難しくなることもあり、社会とのつながりが損なわれる課題があると想定されます。こうした課題やニーズを支援する具体的なプロダクト開発を当事者と開発企業が共同で実施します。
<開発企業について>
当事者の課題やニーズに対応する業種例として、生活用品メーカー、IT企業(ソフトウェア開発など)、寝具メーカーなどが想定されます。
当社では、開発企業が当事者と円滑に連携し、開発を進めるための伴走支援を実施します。主な支援内容は(1)当事者および当事者コミュニティのコーディネート、(2)有識者との連携支援、(3)当事者参画の場づくり、(4)開発プロセスへの伴走、(5)取り組み・成果のとりまとめ・発信となります。
<有識者について>
本プログラムにおける意見収集手法や、当事者との関わり方に関しては有識者の監修を受けます。東京大学先端科学技術研究センター熊谷 晋一郎准教授とは、当事者研究の観点から、学術的手法にのっとった当事者の意見や価値観の収集手法、また当事者の参画促進方法などについて連携して取り組む予定です。また、日本医療政策機構(HGPI)メンタルヘルス政策PJTチームからは、これまでの当事者とのネットワーク構築における知見や、本領域の政策提言経験を踏まえ、当事者の体験や生活に基づくプロダクト開発のあり方について連携して取り組む予定です。
4. 令和5年度のスケジュール
令和5年度は、経済産業省が実施してきた認知症分野の先行取組も踏まえ、メンタルヘルス分野(発達障害を含む)において当事者が参画することにより生活・仕事面での具体的な障壁やニーズを顕在化させられる可能性、およびそれに対応する製品・サービスの開発に寄与する可能性を検証することを目的として、以下のとおり当事者参画型開発の実証を通じた調査を行います。
2023年9月 :本プログラムに参加する開発企業を決定
2023年10月~11月 :連携する当事者コミュニティとプログラムの詳細を検討
2023年12月~2024年2月上旬:プログラムを実施し、検証
5. 今後について
当社では、本年度の取り組みの成果を踏まえ、本プログラムに関わる当事者コミュニティや開発企業を増やし、当事者参画型開発の更なる普及を通じた共生社会の実現に寄与してまいります。
*1 インクルーシブデザイン:実際に利用するユーザ側の意見が反映された製品・サービスを指す。参照:University of Cambridge: What is inclusive design ? https://www.inclusivedesigntoolkit.com/whatis/whatis.html
*2 経済産業省:認知症イノベーションアライアンスWG令和4年度第1回事務局資料より。