積水ハウスの様々な事業を紹介する「積水ハウス ストーリー」の公開を開始しました。
お客様の戸建て住宅への想いや、商品開発への想いを、毎回テーマを設定してご紹介します。第61弾として8月10日に、“積水ハウスとKUMA LABが廃材利活用の新たな選択肢を模索し新たに取り組む姿”のストーリーを公開しました。
■木材として使われない木が存在する?
皆さんは、伐採された木のうち、利用されず廃棄される木があることをご存知でしょうか。
そのひとつが間伐材です。
間伐とは、森林の成長の段階で樹木の一部を伐採し、林内密度を調整する作業です。
このとき伐採した間伐材は、紙や割りばしなどの生活用品に活用されますが、近年はペーパーレスなどの流れもあり、十分に利活用が進んでいない状況です。木材価格の高騰や環境保全の観点から、間伐材の利活用を政府も推進しています。
また、建築現場で整地にする際に、もともと生えている木を伐採し建築廃材が発生するケースもあります。
積水ハウスでは、建て替えなどの際、なるべく既存樹を活かした建築計画をご提案していますが、建物の配置などで残せないケースが多く存在します。伐採しても樹種や樹形がばらばらで製材としては使えないため、その多くが処分せざるを得ない状況にあります。
この課題に着眼したのが、積水ハウスで賃貸住宅シャーメゾンの設計を担当する岡井賢治・岡本且之・青木雄大の3人。廃材の中には樹齢が100年近くになるような巨木もあり、「お客様にとって思い入れのある木を大切にしたい」との思いから、社内の有志を募り、利活用に向け検討を開始しました。
そこで連携することになったのが、2020年6月に発足した東京大学総括プロジェクト機構国際建築教育拠点総括寄付講座(SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)(以下、KUMA LAB)でした。
■KUMA LABと廃材利活用の新たな選択肢を模索
KUMA LABは積水ハウスの寄附のもと東京大学が運営する研究室で、統括するのは建築家で東京大学特別教授の隈研吾氏。ライフスタイルや価値観が急速に変化・多様化する中で、自ら思考し問題に取り組む国際的な建築人材の育成を目指し、国際デザインスタジオ、デジタルファブリケーションセンター、デジタルアーカイブセンターの3つを軸に活動しています。
デジタルファブリケーションとは、デジタルデータをもとに製作する技術のことです。KUMA LABはCNC加工機、3Dプリンタ、レーザー加工機やその利用を支援する専門職員が在中するスペース「T-BOX」を運営しており、デジタルデータから、紙や木、樹脂、金属などの素材を使い、さまざまなものを造形加工することができます。
今回自然木の利活用を一緒に検討したのは、T-BOXで活動する建築学科修士の学生、秋田次郎さんと藤堂真也さん、KUMA LAB学術専門職員の齋藤遼さん。齋藤さんは東京大学大学院建築学科卒業後、設計事務所勤務を経て自身の設計事務所も主宰する建築家で、2022年にSDレビューに入選した「乙事の木遣り台」など個人的にも地域の木材利用や資源サイクルに関心を持ち、従来からデジタルファブリケーションを活用していたことから、本プロジェクトを一緒に推進することになりました。
一般的に市場に材料として流通しない木をどう扱うかについて、大きな課題認識を持っていたという齋藤さん。積水ハウスから相談をした際に、主旨に共感いただいたとのこと。
「ただ、制作物を検討するにあたり、一般的に流通する寸法規格に製材して作ってもおもしろくない。技術的なチャレンジや広がりがある、自然木の特性を最大限に活かしたものを作りたいと思い、まずは一本の木からどんなものが作れるかの検討から始めました」(齋藤さん)。デジタルファブリケーションの強みを生かし、伐採前に木をスキャンし、スキャンデータから何をつくるかを学生とともに検討し、提案することになりました。
製作にあたって、プロセスを重視したという齋藤さん。
「材料として十分精査され、規格化される製材と違い、自然木は乾燥による変形も一つずつ検討する必要があり、対処が難しい。そのため、製作過程で曲がってしまうのも想定の範囲内。製作する途中でも、スキャンして設計しなおすこともプロセスに組み込みました」
プロトタイプをつくる前段階では、取り組みに興味を持っていただいた栃木県の製材会社・田村材木店さんにテスト用資材を提供してもらうなど、デジタルと実物双方での検証を重ねました。
一つとして同じものがない自然木を活用した製作は、学生の皆さんにとっても新鮮だったといいます。
「加工する前に、木がまだ生えている現場を見に行くのも初めてで、切ってからも曲がる材料を使うなどの経験は今までなかった」(工学系研究科建築学専攻修士2年藤堂真也さん)、「加工する機器の使い方もわからないところからのスタートでした。きれいな角材と比べて自然のままの材料を加工・組み立てできたのはいい経験でした」(同修士2年の秋田次郎さん)など、他にはない生きた教材となったようです。
■自然木のデータベースをつくり、設計を自動化
「ハンドスキャナの進化によって、スマホなどでもデータを取れるようになったので、今後はさまざまな木のデータベースをつくりたい」と齋藤さん。「自然木の樹種や形状をプログラムに入れると、実現可能な商品が提案される。これまで自動化が難しかった、自然木に関する設計のオートメーション化も視野に入ってくる」と今後の展望を話します。
積水ハウスとしても本取り組みの先に期待を寄せます。
「積水ハウスの住まいづくりは邸別自由設計。自然木の活用においても、お客様の感性に合わせて、その人が欲しいものを提供できるようになれば嬉しい」、「国産材・間伐材の利活用を広げることで、カーボンニュートラルやサーキュレーションの観点からも社会課題への解決の糸口になるのでは」とプロジェクト担当の井山亮・岩田翔士・山中敦志は話します。
この取り組みを一事業所だけではなく全国に広げること、またKUMA LABの持つデジタルファブリケーションのノウハウ・技術を、社内でも持てるようになることで、お客様への提案がよりスピーディーにできるようになります。
お客様の人生とともに育ち、思いの詰まった既存樹の利活用。
個性ある自然木を新たなかたちでお客様に提供する挑戦は始まったばかりです。
関連リンク:
東京大学総括プロジェクト機構国際建築教育拠点総括寄付講座(SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)HP