プレスリリース

青年期の運動・スポーツ活動における早期離脱の関連要因の研究成果発表

公益財団法人 明治安田厚生事業団(本部:東京都新宿区、理事長:生井俊夫)は日本体育大学と共同で実施した青年期の運動・スポーツ活動に関する研究成果を発表しました。

我が国では学校の運動部がスポーツ実践の場として重要な役割を担っていますが、運動部では途中で参加を辞めてしまう「早期離脱」、すなわち退部の問題が指摘されています。欧米諸国では早期離脱の関連要因が盛んに検討されていますが、日本国内からの知見は十分ではありません。そこで本研究では、国内の男子高校生331名を対象にした2年5ヵ月の追跡調査により、運動部からの早期離脱の関連要因を検討しました。

その結果、体重やBMIの値が低い、怪我や障害(スポーツ障害など)の経験がない、競技戦績が低い/ない、競技継続期間が短い等の特徴が運動部からの早期離脱と関連することが分かりました。競技レベルとつながりが強いと考えられる要因が多く挙げられたことが着目すべき点です。

我が国の運動部は特有の文化を有するために、早期離脱の関連要因も他国とは異なっている可能性があります。本知見は、退部しやすい生徒の特徴が存在することを理解し、その予防策や退部後のサポートを講じることの重要性を示すものです。

本研究の成果は、スポーツ科学分野の国際学術雑誌Frontiers in Sports and Active Living, section Sport Psychologyに2023年8月16日付で公開されました。

【背景】

青年期のスポーツ参加は心身の健康や発達への好影響が期待されます。我が国では、学校の運動部がスポーツの場として重要な役割を担っています。一方、運動部をはじめとするスポーツ組織では途中で辞めてしまう「早期離脱」が生じることが指摘されており、欧米諸国では早期離脱の関連要因の検討が多く行われてきました。

国外の先行研究(Balish et al., 2014)では、スポーツ組織からの早期離脱の関連要因が整理されており、運動有能感やソーシャルサポートなどの個人内、個人間の要因は重点的に検討されているものの、体重やBMI値、体力などの生物学的な要因や組織的要因、政策的要因に着目した検討が限られていることが報告されています。

我が国の運動部活動は、教育的活動として位置付けられていることや、学校生活を通じて1つの部に所属し続けることが望ましいという規範がある等、特有の文化があります。そのため、欧米諸国における先行研究の知見は、我が国の運動部活動には当てはまらない可能性があります。更に、日本の運動部を対象とした早期離脱の追跡研究は心理的側面に着目した1件のみしか見当たりませんでした。

そこで本研究では、運動部からの早期離脱の関連要因を明らかにすることを目的として、国内の男子高校生を対象に2年5ヵ月の追跡調査により検討しました。

【研究内容と成果】

本研究では、日本国内の私立男子高校に通う1年生全員のうち、運動部への所属者331名を対象に追跡研究を行いました。ベースライン調査は2017年5月、追跡調査は2019年10月に実施しました。本研究では、2年生の終わりまでの退部を早期離脱と定義しました。早期離脱の関連要因の候補項目は、先行研究を参考に、生物学的、個人内、個人間、組織的要因を設定しました。そして、これらの候補項目と早期離脱の関連性について、単変量ロジスティック回帰分析を用いて検討しました。

追跡期間に早期離脱した生徒は41名(追跡情報に欠損がなかった者のうち15.0%)で、1年次で19名、2年次で22名が退部していました(図1)。

早期離脱の状況

関連要因の分析では、体重やBMIの値が低い、怪我や障害(スポーツ障害など)の経験がない、競技戦績が低い/ない、競技継続期間が短いといった特徴が早期離脱と関連するという結果でした(図2)。競技レベルとつながりが強いと考えられる要因が多く挙げられたことが着目すべき点です。競技レベルが低いことで、活動の継続意欲が揺らぐ経験をしやすいのかもしれません。このことを踏まえると、様々な競技レベルの生徒が参加する運動部活動では、部員同士の比較ではなく、部員一人ひとりの技能の発揮や向上を重視する雰囲気を作っていくことが早期離脱予防の観点から重要と考えられます。

早期離脱の関連要因

【筆頭著者のコメント】

本研究では、男子高校生における運動部の早期離脱の関連要因を明らかにしました。しかし、本研究の対象校は、スポーツ強豪校であったため、他の学校や運動部においても本知見が当てはまるかという点について、今後の検討が必要です。

現在、地域連携や地域移行をはじめとする運動部活動改革が進められています。これに伴い、従来の「学校生活を通じて1つの運動部での活動を最後までやり遂げるのが望ましい」というような規範も変化していくことが予想され、退部や引退の捉え方も変わっていく可能性があります。これらの改革に伴う運動部活動の変化をみながら、青年期のスポーツ参加を後押しする知見の蓄積と発信に取り組んでまいります。

【発表論文】

論文タイトル:Correlates of Early Attrition from School Sports Clubs in Male Senior High School Students: A 2.4-year Follow-up Study

       (男子高校生における学校運動部からの早期離脱の関連要因:2.4年の追跡研究)

著者    :Takashi Jindo, Naruki Kitano, Koki Nagata,

       Yuichi Nakahara-Gondoh, Kazuhiro Suzukawa,

       Toshiya Nagamatsu

掲載誌   :Frontiers in Sports and Active Living, section Sport Psychology

DOI番号   :10.3389/fspor.2023.1203113

【利益相反】

著者には開示すべき利益相反はありません。